「休日の一コマ」

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 彼は迷っていた。時間はあまりない。せいぜい1時間半といったところか。このビミョウな時間を平穏にかつ退屈しない程度につぶすにはどうしたらよいか、悩んでいた。
「ねぇ、どこいくの」
彼の傍らの腰あたりの高さから声がする
「そうだねぇ、どこにいこうか」
 彼は歩き始めた。あてがあるわけでもなかったが、とりあえず商店街のほうへ向かった。商店街もけっして安全な場所ではない。ともすればなにかをねだられる可能性があるからだ。幸いにして特に気をひくものもなく、それゆえに彼は商店街が切れる少し手前の角を曲がった。一歩、大通りを離れればそこは閑静な住宅地である。人気がないのでここにも時間はかけられまい。道端に転がっている軟球を見て懐かしい気持ちに駆られたが、傍らの者には通じまい。興味はあるだろうが、むやみに道に転がっているものを拾い上げるわけにもいかない。車通りが非常に少ないのはいいことだが、これだけ何もないと退屈する。急な坂道を上ると線路が見えた。線路を越すと団地だ。この団地の真ん中には川が流れていた。
 この川の元はこのあたりでは珍しいれっきとした湧水であるが、その流れは掘割水路の中心部のくぼみを満たす程度に貧弱だ。
「おさかないる?」
「う〜ん、ここにはいないなぁ」
「どうして」
「おさかなにはすみづらいところなんだよ」
「ふ〜ん」
 水路沿いに設置された遊歩道は自転車すらこばむ安全な道だ。少し先にはフェンスに囲まれた遊び場がある。今日は盛況のようだ。高校生がサッカーを、小学生が野球をそれぞれ楽しんでいる。素通りして駅を横目に図書館へ向かう。しかし目的地は図書館ではない。昨日の時点で今日は図書館が休みであることを知っている。その先の児童館へ行くのだ。児童館は閉まっていたが、外にはブランコ・てつぼう・すべりだいが設置してある。誰もいないので使い放題だ。すべりだいを十回ほどすべりおりると、次はブランコだ。言いはしないが、仕草が押してくれと言っている。前よりも高さ・スピードに慣れたようだ。こわがりもせずいつまでもゆれている。
(Page.2へ続く)

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