「七夕」
 夏のはじまり、最初のイベントといってよいのが七夕だ。東京ではちょっと時期がずれるのだが、やや北に位置する地方ではホタルの時期とマッチする。うらやましい限りだ。虫や蛙がやかましく鳴く夕暮れに、七夕の飾りにふわりと着地する小さなしかし力強い光。そんな情景はいまだ見たことはないが、いつかは見たいものだ。
 この時期は子供たちがつつましいくらいに小さな竹に飾りをつけて、家に持って帰る。大きめの駅では飾り立てた竹とかたわらにたこいと付きの無地の短冊及びマジックが置いてある。地上の駅ならまだわかるのだが、地下鉄の駅構内でも見られるのには結構驚く。通勤中の人が短冊をつけている姿も見られることから、みんなこのイベントは好きなのだなと感じる。
 我が家も御多分にもれず、実家の裏から1本竹を切り出し、飾りをつけることとなった。もちろん飾りの作成はみんなで手分けして行うのだが、ほとんどは親の仕事だ。飽きた子供の世話はおじいさん・おばあさんに移行する。むやみに大きな竹をもらったせいで飾りを大量に作成することとなり、1日仕事。とりつけるにも秋の柿採りシーズンにしか使用しないハシゴを持ちだす始末。しかし出来上がってみると、なかなかどうして立派なもの。どうせなら2、3日は飾っておきたいところだが、切り出した竹はすぐに笹の葉が丸まってしまい、2、3日も置こうものなら枯れ果て見る影もないに相違ない。
 やはりメインイベントは短冊作成であろうか。今年はちょうど、隣に住む叔父さん・叔母さん、たまたま実家に遊びにきていた伯父さんも参加してにぎやかなものだ。みんな思い思いの願い事を書く。老若男女、だれもが願いがある。短冊に向かうその顔はみんなニコニコ。願いを吊るした竹をバックに記念撮影。夕方が近い。今日はちょっと風が強くて、雲も多い。何百年前からの雲上のカップルははたして天の川を渡って会えるのだろうか。もっとも雲があるほうが、忍ぶ愛(しのびあい)にはぴったりかもしれないが。

'♪笹の葉さ〜らさら、軒端にゆれる〜 お星様き〜らきら、金銀砂子〜♪'

 懐かしい歌ではあるが、自分でも2番の歌詞はあやふやだ。けれど1番だけでもそこから感じられる風情はいいものだと思う。このメロディーラインはどうしたって日本的で、日本人はどうしようもなく郷愁を誘われるに違いない。最近は風情のある軒端も少なく、また金銀砂子のような星のきらめきを目にすることもほとんどないが、ここまで心がやさしくなれる童謡はたまには歌ってみるものなのだ。日本人の中にあるその情景だけはおそらく不滅でずっと受け継がれるものなのだから。

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作:shun