「リアル」

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 夏休みはいろいろなイベントが目白押しで、子供ならずとも誘惑が多い。すぐ連想されるのは海・山・虫採り・キャンプ・花火といったものであるが、一方で何かの展示会といったものも非常に多い。特に欠かせないのが恐竜の化石展示会だ。一年中見られる博物館での展示もわるくないが、やはり「本邦初公開!よみがえる古代のロマン」なんてコピーに胸躍らせてしまうのは、いたしかたないところなのだ。子供の時は恐竜って見ても聞いてもコワそうな言葉やトリケラトプス・ティラノサウルスといった珍妙な名前に魅せられ、大人になっても妙に明るくなってしまった世の中で依然ハッキリしないあいまいさに惹かれてしまう。恐竜化石の展示会にきている親子連れは多いが、まちがいない。熱心なのは親のほうだ。
 そんな魅力あふれる展示会にタダで行ける機会があった。会場は某有名デパートの七階ギャラリーである。子連れで行ったのだが子供のほうは見た目が恐いのか、それほど熱心ではなくおまけに普段の昼寝の時間に差し掛かると、あっさりと陥落してしまうのであった。しかしおかしなことである。誰も恐竜はコワイものだと教えていない。漢字を知っているのなら、文字通り「恐い竜」なので恐いものなのだろうと察してしまうかもしれないが、幼稚園児ではそれもありえない。動いてもいないし、骨格標本しかない。しいていえばその大きさだけが恐さを示していると言っていいか。子供はそれでも確実にかつての私同様に魅せられた。みやげもので売っているゴム製の恐竜フィギュアをねだったことでもそれはわかる。しかし展示されていない、魅力も少ないと思われる草食恐竜のものをねだったことから、恐竜に対する畏怖と関心の高さが見え隠れする。私自身はかつて同様の展示に何度も足を運んだ経験を基に、雷竜の先祖にあたるそのしっかりした頚骨を熱心にながめ、ちょっと不釣合いな太い首を想像していた。かつての化石標本は全体のかなりの部分が欠落しており、白い石膏で作成したニセの骨で補充しているのが常であった。その姿は痛々しく、外見の完璧さとうらはらなリアリティーのなさが感じられたものだ。今回に関しては、その骨格はほとんどが本物であり、骨に直に触れるコーナーもあってその展示の手法に満足していたが、誰が強要するわけでもないのにお行儀よく一列に並んで順番待ちをしている見学者の姿にはある種の不安と苛立ちを感じてしまった。展示会に付き物のみやげ物コーナーでは石膏(?)の中に埋め込まれた骨を掘り出す「化石発掘体験キット」なるものが売っており、ちょっとそそられたのも事実である。
(Page.2へ続く)

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