「さよならホームベース」 <おすすめBGM>Gettin' High/by Ian Brown in GOLDEN GREATS

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 3回終わって4回の表、どちらにも得点はなくニュースになるようなプレーもなかった。僕等は攻撃を向かえていた。廃部を賭けた試合ということもあり、僕等のチームの応援もいつになく熱が入るが、僕はどうでも良かった。野球部がなくなろうがなくならまいが本当どうでも良かった。
 新しい理事長が赴任そうそう進学校にしたいと言い出してからは各部にはなんらかの圧力がかかっていた。たいがいの部は練習時間の短縮や部費が削減され、その代わりに勉強会と称したなかば強制的な補講と図書室の本棚がいくらか増えた。文化部のほとんどに反発はなかったが、運動部のいくつかが強行的な体制に対し反対運動をおこしてはみたものの、それがもとで廃部においこまれた部も少なくはなかった。その騒動以来影で愚痴はこぼすものの公にするものはいなくなった。僕のいる野球部はというと、成績はあまり良くなかったがスタープレーヤーがいることで辛うじて今日まで存続してきた。
 「どうした?次はお前の番だ。思いきっていけ」と藤巻が肩を叩く。藤巻とは中学以来の親友だ。中学校時代はあまりパッとしなかった藤巻も高校に入って急に身長が伸びメキメキと頭角を表わし、今ではこのチームのキャプテンであり県内で注目されている投手でもある。妙にやる気のある奴は嫌いだが、藤巻のやる気は許していた。野球に将来を賭けているからだ。目的のあるやる気はそれほど不快ではない。ネクストバッターズサークルに腰をおろす。バックネットに目をやると蒲田が手で3と1を僕に合図している。賭けの率だ。
 試合の度に僕等は内緒で賭けをして楽しんだ。賭けの相手は新聞部の蒲田と中村が常であったが、今回はどこからか噂を聞きつけたか昨日までで10人くらい集まったと蒲田が教えてくれた。普段はバレル事を恐れ決して3人以外と賭けなかったが、最後の試合というこもあり蒲田と中村がはしゃいでいることは確かだった。大方の予想は僕等のチームの勝利だ。まぁ、相手がさほど強いチームでないことも確かだが、廃部を賭けた試合ということでこの数週間の練習には力が入っていた事はだれもが知っていた。
 蒲田が八百長を持ち込んできたのは先週の水曜日のことだ。僕はピッチャーでもなく期待の4番打者でもないので、八百長を成立されること自体不可能であることを告げたが蒲田はお構いなしだった。とにかく、チームに貢献しないだけでいいと言う。もともとチームの敗北に賭けるつもりだったので、わかったとだけ告げた。2アウト、ランナー2塁、1ストライク2ボールを向かえた4球目僕は平凡なレフトフライを打った。
 5回の表、一番打者から快進撃か始まり僕等は3点をあげた。1アウト、ランナー1、2塁。さらなる追加点のチャンスである。チームの士気があがり、皆が応援に夢中になっている最中、蒲田が藤巻に近づき何かを話していた。普段は絡まない二人だけに気にはなったが、どうでもよかった。というか、どうでも良いと思いたかった。僕はただただとにかく、面倒なことは考えたくなかった。結局その回の攻撃はそれまでで、僕はというと一度も塁にでていないままだった。(Page.2へ続く)

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