「Bye bye my girl.(Part.1)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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 現文の授業にもかかわらず、あの娘は今日も前のほうに席をとりノートを懸命にとっている。僕は上の空で、前の晩覚えた英語の歌詞をテキストに繰り返し書き込んでいる。We rule the school. We rule the school. We rule the school. テキストの表紙に書かれた「冬期直前講習」、教室の壁に張られた「日々是決戦」の文字、マイクを通して聞く講師の声に未だ妙な違和感をもったままの僕は、集中力を欠き教室のなかで一人失速し始めていた。高校時代野球をやっていた時と全く同じ疎外感を予備校でも味わっていた。口の中の奥の方でする苦い味が蘇ってくる。本当に全く、あの時感じていたものと同じ味がした。
 最近開発が盛んな駅周辺でも東口は特に著しかった。高層マンションが立ち並び、それに付随して市の助成もあってかショッピングモールや大手デパートが次々と建設された。その中に憂い影をひく集団の集まる僕が通う予備校はあった。自転車で5分と走れば田園風景が望める小高い丘があり、そこからみる駅周辺は郊外に落ちたUFOの事故現場を思わせる。僕は友人の今井と授業をフケってはここで他愛のないことをダベった。僕等が抱える他愛のない疑問を。十代の誰もが感じる今思えば本当に他愛のない疑問を。陽が沈みかける頃になると都心で成功を収めて郊外進出を果たした家電量販店の派手な蛍光色の壁が空の光りをさらに反射し燃えさかるように見えた。しばらく経ってから正面の銀行から派手な壁の事で訴えられ塗り換えを余儀なくされたとニュースになったくらいだ。ここから見渡す眺めは僕も今井も好きだったが、好きというよりは居場所がなかったように今思えば感じる。夏に現役で東京の短大に行ってしまった幼馴染みに会ったときに大学に行くことへの疑問をぶつけたことがあったが、彼女は入ってから考えればいいと僕をあしらった。この時期の女子は同年代の男子よりも大人びてみえる。今井にこの話をしたときの反応は僕のそれと全く一緒だった。入ってからではダメなんだ、今その答えが欲しいのだと。(Page.2へ続く)

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