「Bye bye my girl.(Part.3)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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 良く知った校舎であろうと夜は別なのに初めて入る夜の校舎は、必要以上に僕等を拒絶しているかのように冷たい。床をかするスリッパの音も今井の革のジャケットの匂いも僕の外気にさらされた皮膚もこの建物とは無縁で永遠に一体になれない、手術後体内に置き忘れたメスのように「でて行ってくれ!」と言わんばかりの遮断された疎外観を感じた。今井はどうかは知らない。吹き抜けになった玄関を見上げ二階の窓からわずかに差し込む月明りをぼうっと眺めていた。そんな今井をよそに僕は校舎の案内図に100円ライターを灯し図書室を探した。アクリル板に書かれた白い文字は反射してうまくみる事ができないものだから着火具はみるみる熱くなっていった。僕が熱くて手を放すと辺りは一変に暗くなり何もかも失ってしまったかのような寂しさを感じた。次に100円ライターを擦ろうとするが手が熱さに耐え兼ねうまく火が付かない。太古の人が火を管理し始めた時もきっと同じ気持ちを味わっただろうと変な事を考え一人で可笑しくなった。現代は20世紀でまともな将来も定まらない浪人生が大金盗むわけでもないのに犯罪まがいの行為を行って古代人がどうとか考えている。そんな自分が可笑しく思えた。きっとあの娘の為に肉なんか取ってこれないんだなぁ僕は。狩りも行かず優秀なオスが獲った肉をメスどもと待ち横で笛とか吹いて優秀なオス達のご機嫌とって余った分を乱暴に投げつけられてもそれを恥じとは知らず身体を暖めるために貪り食って生きていくだろう。あの娘は優秀なオスに群がるメスの一人で僕なんかにはきっと見向きもしないだろう。たまには僕の笛に耳を傾けてくれるだろうか?目が合っても逸らさないだろうか?僕の近くを黙って通り過ぎる事なく話しかけてくれるだろうか?話しかけても無視しないだろうか?まぁ無理だろう。遺伝子はいつでも正直だ。その時代の最高を求める。ボス猿に群がるメス猿も異様に長く伸びた角を持つサイも凄く解りやすい。解り難いのは人間だけだ。笛吹きまがいが増え優秀なオスよりも口がたち肉ではなくそれを買うお金を作る事に長けているだけでモテている。お金じゃない肉だ。熱い肉だけが種を幸せにできるんだ。社会はいつでも後付けでモラルなんて幻想を唱えて止まないから「本当」が見えににくなっているんだ。僕は優秀なオスになりたい。お金ではなく熱い肉を貪りたい。今僕は笛吹きでも優秀なオス達を馬鹿にはしない。大人になってまだ笛吹きなら僕は子供を作らない。などと考えれば考えるほど僕は思考の深みにはまっていった。
 横から今井はこれを使えとジッポを差し出した。ジッポのオイルの匂いが好きだ。上蓋を開けた時のカチッという音が好きだ。ボッとなる着火音が好きだ。手入れが好きだ。僕もいくつか持ってはいたがあまり持ち歩かなかった。すぐに失くすからだ。家のみでの使用に限定していた。ジッポで照らすと100円ライターの50倍は明るい気がしたのでその事を今井に告げると何故50倍と思ったのか?と聞かれたので「値段分」と答えた僕に今井はモンゴリアンチョップをおみまいした。今井のモンゴリアンチョップは得意技で理不尽な状況に陥った場合に制裁として相手にダメージを与える為のものらしい。聞いた事はないが分析するとそのようだ。だが今日のモンゴリアンチョップはどうやら納得のいかない事での制裁らしい。少し温度が下がった僕の100円ライターと今井のジッポで照らされたアクリル板に校舎の全貌が浮かび上がった。図書室は東側の校舎1Fの奥にあった。(Page.2へ続く)

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