「Bye bye my girl.(Part.4)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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 あの娘の家へと向かう道すがら僕は「どうして?」を今井に問いかけていた。あの娘の家に近づくほどその「どうして?」の数は増し到着する頃には車の中が「どうして?」で一杯になった。どうしてあの娘を好きになったのか?どうして人は人を好きになるのか?愛するのか?沢山の女の子のなかで選んだ理由を、好きって感情のレベルは?ベクトルは?皆と一緒?とかを、最初は真面目に哲学的に答えていた今井だったが飽きたのか途中から指を鼻の穴の中に出し入れしだしてからは全てに対して「フェイフェイ」と力のない返事で流していた。「ファ行」は五十音には存在しない。正式採用されていない。多分一般に発音表記として流用したのは明治以降だろう。その頃まだ日本でなかった琉球だって音階に「ファ」は見当たらなかったんだから。そんな「ファ行」で僕の話しを流す今井に腹を立てた僕はその「どうして?」をすべて「ファ行」に変換して応酬した。例えば「フォーフィフェフォーファフゥフォ?」なら「どうしてそうなるの?」と変換される。互いに一歩も譲らないものだから先程あの娘の家に到着するころには「どうして?」で車の中が一杯になったと書いたが、本当は「ファ行」で一杯だった。ファフォファファフェ(「ファ行」だらけ)だった。僕は今井との会話が「ファ」で単調さを増していく中、別のことを考え始めていた。身体を残して、今井との会話は反射ですましている自分をフカンで見下ろしていた。僕の心はどんどんその場所から遠ざかって行った。
 僕と今井は時々テニスをして遊んだ。お互い上手いというわけではないが、共に中学でテニス部だったので幾分かの心得はあった。元々勉強ばかりじゃ身体に悪いからと今井が言って始めたのがキッカケだったが、なまった身体に運動後の心地よい疲労感が蘇り勉強以上にのめり込んだ。週に2、3回は出かけ半日をテニスに費やした時期もあった。そんな場合でないことは百も承知だった。周りからの非難もあったが、志望校は漠然とあってもどうしてそこに入学したいのか、その後何をしたいのかが明確でない限り僕等にとって試験勉強は全く意味を持たないと虚勢を張っていた。本当は将来に怯え不安な僕等を解き放つ唯一の場所なだけだった。模試の順位は行ったり来りを繰り返す中、テニスの腕前は留まる所を知らなかった。右の手の平のまめも右肘の痛みも上昇する気分がはねのけるほど夢中になっていた。あの娘とはたまに何人かで昼食をともにしたりする程度の中だったが、急に近づくチャンスが訪れた。赤間の提案で6、7人集めてテニス大会を行うことになったのだ。僕があの娘を思う気持ちを気づかって画策したわけでもなさそうだった。赤間はただのイベント好きなのだ。だから僕もそんなに気がねなく受け入れる事ができた。僕はテニス大会に備えて赤間から5000円でヨネックスのデカラケを譲り受けた。あの娘が元テニス部と聞いてそれまで使っていた1500円のダンロップのラケットでは笑われると思ったからだ。せめてもうワンランク上でいたかった。(Page.2へ続く)

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