「Bye bye my girl.(Part.4)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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そういうヤラシイ所は誰にだって覚えはあるはずだ。乱打をひととおり終えると試合を行う事になった。今井や赤間は僕に執拗にあの娘とのダブルスを勧めていたが、僕は断わり続けた。見え透いたそういうヤラシサだけは避けたいものだ。この時点でもあの娘は僕の気持ちには気付いていなかったと思う。いつも遠くから眺めていただけだったし、気付かれないように一生懸命振る舞っていたからだ。浪人生という状況で恋愛をポジティブには受け止めらる人間はそうはいない。逆にそのことであの娘の迷惑になることが耐えられなかった。しかしあの娘の声には逆らえなかった。「一緒に組もうよぉ」とあの娘は僕を誘ってきた。駅前の宗教の勧誘も一人で留守番をしている時の新聞の勧誘もことごとく断わってきた僕でもあの娘の声の前では身体が拒絶すること忘れてしまった。あの娘は少し甘えた声で喋る。鼻にかかった甘えた声で喋る。「私高校の時テニス部だったんだよ」「私もテニスしたいな、一緒にしたいな」「ねぇダブルス組もうよぉ」。あの娘にそんな声でおねだりされたら世界中の男は何だって買ってしまうだろう。良く調査したら戦争が起る原因の一つにあげられるかも知れない。「あの国が欲しいよぉ」とかおねだりされて戦争を始めた人も一人はいるだろう。そしてあの娘の甘えた声を聞きながらテニスをしていると著しく集中力を欠く。フヌケになっていく。それでいて心地よい。夏の空を通り過ぎる風でもない心地よさが身体に充満してくる。トーナメントで行い一試合目は赤間のチームと対戦することになった。第一セットはレシーブで向かえ僕の番からだ。あの娘は中断で待機している。相手の前衛はネット際でプリンスのデカラケを左右にふり僕を威嚇している。赤間がサーブの体制に入る。指揮者がオーケストラにサインを送るように両手で弧を描く。左手から放たれたトスは高く上がり肘から直角の位置にある。前過ぎても後ろ過ぎても行けない直角だ。この瞬間いつも僕の耳からは僕の息づかい以外は消え去る。視界にあるのは高く上がったボールだけだ。何にも替えがたい緊張がそこにいつでも存在する。そして理想的な角度でガットはボールを捕えた。深めに待機していた僕には丁度いい球威でボールがこちらのコートに向かってくる。僕は前衛の頭を大きく超えるロブを返しあの娘に前に出るように指示をだす。赤間はコートの端から打った後すぐに中に戻らない癖があった。そこをついた作戦だ。赤間があわててボールを拾いに行く。そして同時に相手の前衛も反対側に移っていく。次に差すコースは2種類しか存在しない。その一つにを封じ残りの一つに賭けた。僕はレシーブした位置を赤間が追い付くまで動こうとはしなかった。赤間にクロスボールを誘ったのだ。案の定赤間のレシーブはクロスを返した。そこで相手の前衛に隠れていたあの娘がセンターに飛びだし逆サイドにボレーが決まった。その瞬間でそのセットの全てが終わった感じがあった。チームワークがいいと相手チームに褒められながらそのセットはなんなく取れた。試合中あの娘が無言でいてくれたことも幸いした。向かえた第二セット。サービスには自信がある。今井との練習も必殺サーブの開発ににその大半を費やされた。第一セットはあの娘に花をもたせた形だった。今度は僕がいいところを見せる番だ。テニス程自分勝手で孤独なスポーツはないと思う。友達と遊んでいるのだから楽しもうという感情は一旦コートに入ったら捨て去らなければならない。自分がみじめになるからだ。どんなスポーツもそうだろうが特にテニスにおいては集中力が絶対である。(Page.3へ続く)

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