「Bye bye my girl.(Part.5)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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こんな時に何故か今井の鼻が気になった。今井の鼻はクラスでも有名な鷲鼻だ。僕の家系には遺伝子学上とうてい持ち得ない鼻を持っている。そして言われてみないと気が付かないが、少し曲がっている。小学校の時ラグビーボールが当たり曲がったと前に聞いたことがあるが、やっぱり少し右に曲がっている。鼻ってこうしてみると変な形だ。穴がどうして二つ必要なのか?誰も教えてくれなかった。などと遠くに行きかけた僕に今井の曲がった鼻という現実が襲ってきた。僕は今井の腕を押しのけ怒鳴った。そして同時に対向車のヘッドライトで一瞬視界を失った。普段あまり感情を表に出さない僕が怒ったことで今井は驚いたことだろう。今井はだまって正面を見つめていた。僕がそうするように。運転席と助手席の間に大きな川が流れているようだ。煙草の灰を落とそうとしたところで今井がエンジンを再びかけた。今井は黙ってしばらく走り出すとポツリと「ゴメン」とだけ言った。僕はその言葉をかみしめ何も言わなかった。
 沈黙の車内には今井の好きなU2のCDがかかっている。アメリカ南部のテイストを取り入れたそのアルバムは疑似的なライヴ盤の音を出していた。拍手や歓声が曲の合間はもちろん、全体に響き渡る。少し開けた窓からその歓声がこぼれ落ち妙な臨場感を生んでいる。深夜の国道は薄赤いライトに照らされ、くねくねと遠くまで続いている。反対車線を走ろうが逆走しようが誰にも迷惑のかからない時間帯の車道は一種の寒さを感じる。取り残されたような寒さだ。喉の奥にいがらっぽさが走る。小さい頃からずっとそうだ。なんだかはっきりしないときに起こる。理由は知らない。多分何か言いたいのだろう。今思えばそんな気がする。そして、くねくねと無軌道な線を描きながら歓声の鳴りやまぬ沈黙の車は走っていた。

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作:Grecoviche

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