「Bye bye my girl.(Part.6)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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 僕が怪訝な顔をしていたのか、あの娘が後ろから「そんな顔してると本当にそういう人になっちゃうんだからぁ」と声をかけてきた。僕と今井が今朝まで君の家のそばにいただなんてあの娘は知る由しもなく屈託のないその笑顔は、僕の不機嫌な朝を少しだけ軽くしてくれた。この笑顔が観たいから眠いのに無理して来たんだ。今井はまだ猫と布団の中だろう。テキストを鞄にしまいながら僕は大きなあくびをする。ひどく疲れた浪人生に見えたのかあの娘は「勉強頑張ってる?」とありきたりな質問を投げかけてきた。あの娘の目を見ていられない。直視できない。恋に落ちると誰でも臆病になる。嫌われたくない、離れないで欲しい、嘘や裏切りや罪や罰から百万光年離れたところで会っていたい。
「ペンだこから血を吹き出すくらいやってるよ」
僕の精一杯のレスにそれでもあの娘は微笑みで返してくれた。あの娘が話し出す前に、次に続く言葉を探したが何処を切り取っても思いつく言葉は的はずれなものばかりで…『月々2万』さっき見た広告じゃん、『歯槽膿漏って、思想No Lawって書くとカッコいいよ』バンドでも組もうってか?、『君を因数分解してみたい』口説いてるつもりか?しかもいきなり…喉の奥で思い浮かぶ度にさまざまな言葉を飲み込んだ。そんなの…ギャグばっかしじゃん!「広末涼子マジで恋する3秒前」でなく「広川太一郎のマジでホイする3秒前(BY浅草キッド)」になっちゃうよ!働け!もっと!俺の右脳左脳前頭葉!!僕が不甲斐ない為に結局あの娘から次の会話は始まった。
「ねぇ、今日今井君たちは?」
「たち」はに含まれるのは赤間の事だろう、赤間はサッカーの試合のはずだ。あいつはしっかりもので、文武両道を地で行ってる。近所の小学生に週一回サッカーのコーチをしている。色黒だし…もしや?赤間の事が…?遠まわしに聞いてる?恥ずかしさに包まれた真意?え?え?え?え?え?と僕が弱気な指導者みたいに返答しあぐねているとあの娘は短く「一緒にお昼いこうよぉ」と言った。”一緒に食事”この言葉がエコーよりも波を打つフランジャーのような音で頭の中でリフレインしている。
「何か用事あるの?」
僕を誘ってる?って事?この言葉の後に僕は余計な詮索無く普通に即答できた、もちろんと。言いながら今日から日記つける事を”にわか決心”した。っていうか今日の事だけでもいい。嬉しさを原稿用紙にでもまとめたかった。そんな気分だった。(Page.2へ続く) 

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