「Bye bye my girl.(Part.7)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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 僕はその晩今井を呼び出した。いつものように当ての無いドライヴへと向かう車の中で、今日あった劇的な出来事を誇張して話した。しかし、どんなに一生懸命話しても一向に今井はそんな事かと興味なさげで乗ってこない。むしろ流してる節がある。今井のそんな態度に僕は腹が立ち、「これはファミリー・ビジネスだ!」と胸ぐらをつかんで怒鳴ると今井は「ファミリー・ビジネス?」と言って吹き出した。僕の頭の中では十分シナリオが出来あがっていて、これを機会にあの娘にさらに近づこうともくろんでいたのに今井が乗ってこないんじゃ、話にならない。だから焦ってついあんな言葉を吐いてしまった。でも今井に魂胆を悟られずに説明したもんだから、今井がなんの事だか判らずに吹き出したのも当然である。今井に全てを話し自分の”いやらしさ”を悔いた。「だったら最初に言えよ」とばかりにその後の今井は妙に積極的になった。今井には自分以上に友人の為になにかしたがる癖がある。本人も十分把握しているだろうが、今井の最大の長所であり最大の欠点でもある。しかし僕にとっての今夜の今井は特に心強かった。気に入ったのか?バカにしているのか?さっきから「ファミリー・ビジネスだろ?」と繰り返しているのだけは癇に触ったが・・・・・。
 日曜日の予備校。普段はあまり立ち入る事のない曜日は別の空間に紛れ込んだかと錯覚を覚えるほどの違和感を感じる。休校日に間違って学校に行ってしまったなんとも言えぬ寂寥感以上に一種威圧感を覚えてしまう。自習室で待ち合わせをしたものの既に僕のスペースはなく、一見空席と思わせる誰もいない机に置かれたテキストや筆箱が僕に「GET OUT OF HERE !」の信号を、空気を振動させて送ってきているようだ。比較的人の少な目の解放された教室に腰を下ろし、ポーズ程度に広げた参考書にかかれた意味のない言葉を呪文のように口の中で反芻する僕は明日の天気ばかり気にしている。置かれた立場に対して然として立ち向かう僅かな勇気も些細な決心も僕は持ち合わせちゃいない。帰りに雨が降るのか?そんなことの方が気になってしょうがないんだ。
「こんな所にいたのぉ、探したんだからぁ」
甘えた声が教室いっぱいに広がる。一瞬みんなの注目を集めた事で、紺の少し大きめのグレンオーバーのダッブル・コートに身を包んだあの娘は身体を小さくして顔を赤くして僕に近づいてきた。その姿がとてもかわいくって僕は”雄叫び”を揚げて胸を叩き捲くりたい欲求を押さえ、出来る限りの平静を装って「表に出よう」と合図した。道路沿いに木々が植え込まれ適度に散らかった枯葉が足元を彩る。もう少し陽が暮れていたらと思う。夕焼けによく映えるこの道をあの娘と二人きりで歩きたかった。僕は普段行かない喫茶店にあの娘を案内した。あの娘は落ちつかなげでさっきからメニューを追う目が行ったり来たりしている。予備校の近くじゃ誰に見られるか判らない。慎重を期す今回の作戦遂行の為に僕も一度しか入った事のないこの店に連れてきたことを出来る限り神妙な面持ちで話すとあの娘は声には出さないがめいいっぱいの笑顔で「わかってるわ」と答えた。その笑顔がまたたまらなくて僕はまた”雄叫び”を揚げて胸を叩き捲くりたくなったが、今回もグッと堪えて飲み込んだ。人間あまりムリはイケナイらしい。しかし人生の中で恋愛史上主義な季節はだれでもあるもので南北の合同会議よりもスマパン解散よりも目の前のアナタの存在が一大事な時期がある。だから多少のムリは身体も承知してくれるだろう。(Page.2へ続く) 

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