「Bye bye my girl.(Part.9)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

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 国道を少しそれた所に僕らの行き付けのお店があった。車に乗るようになって初めて来れる距離が微妙に背伸びした少年にはたまらない。アメリカの50年代を基調としたつくりの店内は男心をくすぐるアイテムでいっぱいだ。古びたピンボール。100円入れるとちゃんと動くんだ。中央に強引にディスプレーされた750ccのバイク。詳しい奴が言うには年代モノらしい。真っ赤なガムボール。口に入り切らないほどおおきなガムが入っている。いつかこのガムを口に入れて顎がはずれそうになった事もあったけ・・・。この店のウリは厚めのパン生地のピザで、服装もそうだが食事もイタリアンに染まり始めた今井には好都合だったようだ。多いときには一日2回もこの店に来た。今井が運転手だから僕の些細な拒否権は効力を持たない。学校では鷲鼻で有名だった今井だが最近はその鼻がさらに大きくなったような気がした。僕はただただ心の中で本当にイタリア人にならないように願った。イタリア人は良く知らないが映画で観る限り”濃く”て嫌いだ。
 タバスコのビッチリかかったアンチョビー入りのピザをアップルタイザーで流し込む今井に僕は短く「今度の日曜日なんだけど」と切り出した。今井はゆっくりラッキーストライクに火をつけると「ファミリービジネスか?」を含み笑いをしながら切り返した。僕は困った顔で笑いながら「そうだ」と告げ今井の彼女の都合を確認した。今井の彼女は高校の同級生で、今井は高2の文化祭をキッカケに付き合った。だからもう3年ということになる。現役で国立大学を受かりながら志望大学でないという理由で僕ら同様、今は彼女も浪人をしている。地方の受験を控えた恋人同士にとって大学の所在地は重要問題である。学部や学科はもちろん、研究施設の充実度なんて千光年先にも考えにない。周囲は彼女の決断を今井と離れる事を惜しんだと捉え、今井に非難が集中したが僕は責めたりしなかった。今井の彼女はかわいく明るくて社交的で歌が上手くてエクボがあって僕も大好きだったけど、その決断が今井をどんなに苦しめるものかわかってない彼女の幼さに僕は失望していた。だから何も言わないことで今井を励ました。その事に触れない事で今井にエールを送った。今井の彼女を非難することが今井自身を責める事になると思ったからだ。秋が終わろうとしているのにまだ気持ちが受験に向かっていなかった僕に付き合う今井はそのプレッシャーに耐えきれず逃避していたのかもしれない。
(Page.2へ続く) 

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