「Bye bye my girl.(Part.10)」 <おすすめBGM>"We rule the school"/by "Belle and Sebastian"/in "Tigermilk"

Page.1

 あの娘が席を立ったと赤間から連絡が入った。教室を抜け予備校を出て駅へと続く道のりまでの所要時間は信号待ちに会っても5〜6分だ。赤間と今井の強引な協力で何度もシュミレーションしたもののいざとなると、なかなか動けないものだ。今井がPOPな時計を指差し時間がないとせかす。「やっぱりいい」と言いかけた時に今井が遮るように「5分後には終わってるから」と言った。その言葉で気が楽になり、水色の紙袋をを持って僕は走り出した。あの娘とは反対に駅から予備校へと向かった。駅のロータリはゆとりのある作りになっていて中央には噴水や歩道の脇には花壇や樹木が植えられている。2000年近く前に生まれたイエス・キリストとかいう人のおかげで、ロータリで一番でかい木はライトアップされ、夕方5時を少し回った頃でも12月ともなると十分辺りを賑わしている。紙袋の中身がズレナイように注意深く急ぐ。2週間ほど前にプレゼントはそろえた。あの娘の名前入りのシンデレラ城のガラスの靴にティファニーで買ったツイストフックの指輪を裸で入れラップしなおした。やってることは”まるで女の子”だったが当時はそんな工夫が気に入られたんだ。まったくバカな話しだけど、その為に短期でバイトした位だから僕の受験は終わったも同然だった。人間がまだ裸で生活していた頃なら丸ごとマンモスをあの娘にあげていただろう。指輪のサイズは赤間に聞き出してもらった。当日うまく言えなかった場合を考えて告白カードも添えた。「気づかないうちに惹かれていた。知らないうちに君は僕の真ん中にいた」とだけ書いた。
 カドを曲がるとあの娘が交差点を渡ってくるのが見えた。後ろには隠れるようにして赤間も見えた。最悪のスパイだ。ワルシャワでこんな事してたら眉間撃ち抜かれるだろう。振りかえると今井も赤間同様へッピリ腰でついてきていた。今井も赤間も彼女との約束を後にしてまで付き合ってくれている。その事に感謝すると不思議と身体の温度が上がった。あの娘との距離がつまる。あの娘はまだ気づかない。なんて声をかけようかなんてさんざん考えたのに今はすっかり真っ白だ。心臓の鼓動が上がるのがわかる。あの娘との距離がつまる。あの娘はまだ気づかない。第一声が上ずる事ほどみっともない事はない。僕は声を出してみる「アッアッ、テステス」。あの娘との距離がさらにつまる。あの娘はまだ気づかない訳がない。「あ、どうしたのぉ?」僕は今発した「アッアッ、テステス」が聞かれなかったか気になったが、できるだけ平常心を装った。(Page.2へ続く) 

<<<<TOP                  NEXT>>>>